カズシン・ブログ

カズシン株式会社 代表取締役 山内和美のブログ
不動産業界20年を超えて、この経験に基づく…取引のこと、物件のこと、人間のこと。
宅地建物取引業者(不動産業者)カズシンの代表 山内和美が思うこと。

スマートデイズ(旧スマートライフ)の物件-東京都内の新築シェアハウス

2018.02.02

ベッキーさんが復帰後、CM出演した『かぼちゃの馬車』。その運営会社であるスマートデイズ(旧スマートライフ)が、物件のオーナー様に保証した賃料が支払えなくなり、大変な事態となっています。

自己実現を夢見て、上京(地方から東京へ出てくる)してくる若い女性たちを応援する。
わずかな手持金で、出てきたその日にでも住まいを確保できる。その住まいが、シェアハウス「かぼちゃの馬車」。その女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」(物件)を投資家に販売し、建物完成後は借上げて、運営している会社がスマートデイズ(旧スマートライフ)という法人です。

上京女子をシンデレラ(お姫様)のイメージにして理想的に見せたのが、ドレスを着て馬車に乗りドラマチックな旅立ちをしているベッキーさんのCMでした。

そんなCMが放送されて1年。今「かぼちゃの馬車」を運営している株式会社スマートデイズ(旧 株式会社スマートライフ)は、物件(シェアハウス「かぼちゃの馬車」)を所有しているオーナー様への賃料が支払えず、保証していた借上賃料の送金を止めているそうです。
サブリース(一括借上げ)契約で30年の定額家賃保証をしてまだ間もない(長くておおむね2~3年程度の経過と思われます)にもかかわらず、早々に、実質的に破綻してしまった、このビジネスモデルについて。

まだ建築途中のオーナー様もいる一方で、建築からすでに2年も経ち新築とは言えない物件になっているにもかかわらず全空の物件もあるとか。

7㎡ほどに小さく区切った部屋数がおおむね10室~20室。木造2階建て(例外もあるのかもしれないですが)の建物の内に、効率優先の輪切りで、均一に配置された間取り。台所、トイレ、シャワールームが共同です。シェアハウスの魅力といえるだろうリビングがほとんどの物件には無いようです。小さな個室の壁は薄く、住んでみるとおそらく息苦しいものとなるのではないかと思われます。

このような定型的な建物、そのほとんどが東京都内に建てられました。しかも競合となる近隣の距離に、2つも3つも(それ以上も)建てられたのです。

すぐ近くには築10年を経過して、20年くらいになるだろうかと思われる2階建てアパートに掲げられた「空室あり」(「入居者募集中」)の看板。看板は古びて、長く入居が決まらない様子を醸し出しており、寂しさを強くさせるようなエリアにも多く建てられました。

7㎡で台所、トイレ、シャワー共同の新築シェアハウスが、この数年のうちにバンバン建てられました。建てられた数は約800棟にもなるようです。

通常のアパートであれば、電気・ガス・水道料金などは入居者が各自負担で別途、電力会社等に支払います。しかし「かぼちゃの馬車」などのいわゆるシェアハウス物件では均等割りのような形になり月額決まった額を家賃と一緒に支払います。共用部分清掃代などの共益費(こちらはアパートでもかかります。階段などの電球の取り換えなども含まれます。)の項目として追加され、シェアハウスでは共益費として請求されます(トイレットペーパーや洗剤など消耗品もこの中に含まれます)。シェアハウスの場合、その金額が、月額、およそ各自1~2万円程度の負担となります。

たとえば、競合エリアのアパート(マンション)が仮に5万円、6万円の相場家賃、しかしその相場では空室がスムーズに埋まらないエリアとすれば、家具家電が付いている、入居時の費用負担が軽いなど借りやすい面はあるとしても、築浅とはいえ7㎡程度とかなり狭いシェアハウスに家賃5万円での募集で安定的に入居付けをするのは難しいのではないでしょうか。とくに駅から遠い場合などはその傾向が強いのではないかと思います。かといって、空室を埋めるためあまり大きく家賃を下げてしまうと、全般的に投資コストの回収において厳しい面があるのではないかという気がいたします。

また共益費は、家賃と別。こちらはアパートに住んでいても支払いが発生するもの(電気ガス水道などの公共料金はアパートであれば自分で個別に支払いが発生するもの)。共益費の支払いもあるので、仮に家賃が3万円~7万円として、月額約5万円~9万円くらいの幅で、支出をしてくれる入居者がどのくらい利用してくれるかということになるのでしょうか。

立地が良ければ、アパート・マンションの相場家賃と比べて、適正にシェアハウスとしての家賃を設定すれば入居者は見つかる可能性は高いでしょう。しかし、駅から遠いシェアハウスの魅力というのは、多少の家賃の差額をもってしては見いだせない面がありそうです。家具家電などが揃っていることはシェアハウスの魅力の一つとなるにしても、駅から近い方がやはり入居付けは楽でしょう。

ネットカフェ難民のような方々(その多くは男性のようですが)に対して、毎夜の休息場所の支出金額をシェアハウスに振り替えてもらうと仮にしても、お仕事などのご都合もあるでしょうから、マイナーな駅から15分~20分歩くというのは、敬遠されることも想像されます。駅から近ければ、可能性としては少なくないと思います。

かぼちゃの馬車、1万室ものシェアハウス(個室)が作られて、現在の入居率は50%を割り込んでいるようです。危機的な数字です。

平成27年、28年それから、今回実情が表に出た29年あたりを中心に、次から次に建てられたのですが、この時期は都内の物件の価格が高い時期であり、手頃に土地を仕入れるのも難しいときでした。

属性の良い会社員に販売するにもしやすい、融資を付けるにも付けられる価格帯として、土地の仕入れに建物を建てて、自社の利益も含めて、1棟1億円程度で仕上がるのが1つの目安だったのではないでしょうか。
おおむねその価格の範囲でおさまり、規格に当てはめていける土地が条件となってきます。

おそらく当初は、立地も気にしながら、駅近も意識しながら、土地を選定したのではないかと思います。ただ、こうした駅近の土地は価格(坪単価)も高くなりがちです。また、希少です。手頃な駅近の土地を入手することが困難であったこともあり、そして物件の販売価格の点からも、駅から遠い場所の土地も仕入れることになったのではないかと思います。

メジャーとは言いがたい駅においても徒歩10分以上歩くなど、シェアハウスとしての経営は一般的に厳しいだろうと思われる立地にも、建築のすさまじいスピードの中で、多数建てられることになったのではないでしょうか。

アパート・マンション(賃貸)でも、10分歩くと、入居付けは楽ではないです。
シェアハウスのような物件は、駅に近いからこそ価値があるともいえるものです。
たとえ共同生活であったとしても、駅に近くて便利だから、そういう、使い勝手の良さと、身一つで入居できるというコストパフォーマンスの良さに魅力を感じる入居希望者のニーズに合わせて発展していくものだと考えます。

借りる側から見た場合、入居審査がうるさくなくて、仲介手数料、礼金や敷金など一般的にアパート・マンションを借りる時にかかる費用がほとんどかからないことが、シェアハウスのメリットとしてあげられるでしょう。
付け加えるならば、どちらかと言えば、共同リビングはあった方が好まれるのではないかと思います。交流が生まれることで、シェアハウスに住まう喜びも生まれてくるといったこともあるでしょう。リビングに集う入居者の方々に魅力を感じれば、またその立地に付加価値があれば、それほど駅近でなくても(とはいっても、やはり10分圏内が望ましいでしょう)、シェアハウスはやっていかれるところもあると思います。

また、家具や家電が備え付けになっていることは、シェアハウスの大きな魅力といえるでしょう。購入するには費用も手間もかかります。身の回りの衣類などを入れたスーツケース一つで入居できることは、手軽さやまとまった費用の支出が軽減できる点で、メリットを感じる方というのはけっこういるのではないかと思います。だから、多少月々が割高の家賃になったとしても、シェアハウスを選ぶという考え方は理屈に合ったところはあると思います。

中心的な価格帯として1億円くらいの販売価格に仕上げられるように、規格に合う土地を選定し、規格通りに建物を建てる。おおむね総額1億円(超)で仕上げた物件をセミナー集客力、営業力で、次々に売っていく。
上場会社のサラリーマンの方々や公務員など固い職業で、融資が付けやすい方々に向けて、フルローンもしくはそれに近い借り入れを背負ってもらい、買っていただいたのだとして。

 上場会社のサラリーマンや公務員の方々は、簡単には破綻(自己破産)しないと考えられています。仮に物件からあがってくる家賃だけでは返済に窮する事態となったとしても、給与収入や身内(親など)からの借入で補てんしながらでも、返済を続けていく方も多いのではないでしょうか。
それだけ収入があり、お金の工面がつく方々であるということも言えますが、それとともに、真面目であり、世間体を大事に考える方々であるともいえるのかもしれません。

このような属性の方々に着眼して、投資物件を売る会社というのは、たくさんあります。自己資金がなくても、このような方々には、融資する金融機関を付ける不動産会社、販売会社があります。

さて、 物件を売った売買代金から得られた利益を根拠に、建物が完成し引渡しを完了した物件オーナーへすでに始まっている借上げ賃料の支払いに充当すべく、順繰りでお金を回していく。この自転車操業が続く間は、スマートデイズ(旧スマートライフ)のビジネスモデルの破綻は社会問題化しないですんだのかもしれません。資金繰りがいよいよつかなくなって、問題が公になったということでしょう。

スマートデイズ(旧スマートライフ)のシェアハウスに融資を付けていた金融機関が、その流れを変えて、融資の引き締めに入ったことから、緊急事態となってしまったようです。

それで、今回、家賃が支払えないとなり、オーナー様に説明会を開催したのが、今年の1月中旬。その直前に、今までの代表取締役から新代表取締役(社長)に代わりました。新社長には、学生向けの企画、マーケティングなどを得意とする法人の代表取締役が就任しました。この法人は、昨年の夏頃、スマートライフに多額の出資をしました。

そのことを知った当時、私はたいへん驚きました。同業ではない不動産業以外の企業が資金を出したこと、多額の資金を出したということは、すなわち、このビジネスにやっていける可能性を見いだしたのだろう、ということ。そのことに、驚きがありました。「違う目が見れば、やっていける可能性がいくらもあったということなのか」と。私自身「井の中の蛙」だと認識された出来事でした。しかし、結局は、今回の事態となってしまいました。

また、投資された方々については、仮に入居者で部屋が埋まらなくても、シェアハウス入居者を対象とした人材紹介ビジネスや、宅配ビジネスとの提携などで、収入を立てられることをアピールされたこともあり、新しいビジネスモデルとしての期待も刷り込まれてしまって、気持ちが高揚した面もあったのかもしれないと思われます。

今渦中にあるオーナー様、「いい話」を信じて、巻き込まれてしまった方々の「後悔先に立たず」の苦しさを思う時、不動産については、噂(儲かっている人とか儲け話など)を信じるのではなく、現物をしっかり見ていただくことが何より大切だと思います。

このブログを読んでいただいている方の中に、これから何らかの物件を買うことを予定している方がいらっしゃいましたら、現物を見に行ってください。大多数の方は現物を見られてから買われると思いますが、借上保証付きなので安心だから見ないでもいい、とお考えの方がもしいらっしゃいましたら、やはり、最終的な決断は、見てからにされた方がいいのではないかという気がしております。
不動産は形のある物です。だから目で見ることができます。実物です。物を見ることで現実も見えてくるところがあると思います。

新築でこれから建つにせよ、その土地(更地)まで、実際に自分の足で歩いてみてください。

駅から15分歩いて、車も入れないような、道路付けがあまり良くない立地で、近隣のアパートも入居付けに苦労している現状、それらを自分の目で見て、それでもこの土地(物件)を買いたいと思うか否か。また、このような物件を買ったら、次に売る時に簡単に買主が決まるのか、また価格は希望通りでいけるのか。
30年間の定額家賃保証付き(サブリース)で、年利7%~9%もの高利回りをうたわれ、返済も苦労しない、毎月の不労所得にもなる、このような話は耳に心地よいので、気持ちが動くものです。

しかし、そのようないい話において約束が約束通り果たされることは、まずは無いというのが、不動産投資の現実ではないかと思います。
入居者が入らなければ、不動産は収益を生まない、ただの箱です。

駅から徒歩5分でも入居付けに苦労して家賃を下げて募集をしているアパート・マンションがたくさんある駅で、10分以上も歩いてシェアハウスで家賃が周辺アパートとあまり変わらないとなると、率先してこの物件を選択するユーザーは多くは見込めないのではないでしょうか。

入居審査が甘い、その日からでも入れる、仲介手数料がかからない、礼金敷金などの初期費用がほとんどかからない、家具も備え付け、など、メリットがあるにしても、逆から見れば、

問題ある入居者が入る可能性もその分高まることも忘れてはならないところでしょう。(もちろん、シェアハウスに入居する皆様がそうであるということではないです。)

シェアハウスの運営には通常のアパート・マンションよりも手間もコストもかかるため、より利益を生み出せる立地や要素がなくては、利回りは回らない結果になりがちです。

入退去が頻繁にあるため、対応する管理会社は、管理料として家賃の20%くらいはもらわないと合わないケースが多いようです。加えて、近くに数棟まとまって管理できれば受託しやすくても、1棟だけとなると、なおさら管理料はしっかりいただかないと、運営受託は厳しいということにもなるでしょう。

シェアハウスは基本的に仲介手数料はとれない(貸主がシェアハウス管理会社となるため)、どうしても入退去に人手もかかり、募集にコストもかかりますから、安い管理料では合わないということになるようです。ということは、その分、収益が高くなければ、わざわざシェアハウスにする意味はないということにつながりそうです。

ちなみにシェアハウスは寄宿舎であり、寄宿舎の用途に合わせて、建築やリフォームの際にはいろいろクリアーしなくてはならない条件があります。したがって、既存の建物をしっかり合わせるのはかなりハードルがあるため、どの物件でもシェアハウスにできるというわけではないです。このようなこともあって、スマートライフは新築にこだわったところもあるのだろうと思われます。新築であれば、遵法からはずれないように作ることができます。そして、それが訴求ポイントの一つになったのです。

スマートデイズ(旧スマートライフ)の新社長が、本物件をまとめて借り上げてくれるという上場企業との提携に取り組みをされているようです。
ただ、その話が仮に整ったとしても、借上賃料は、本来スマートデイズ(旧スマートライフ)が保証した金額とはいかないでしょう。

大幅にディスカウントされたところでも継続しての借上げを望むのか、管理会社を変えて借上保証を付け直すのか、サブリース(借上げ)ではなく管理委託とするのか、もしくはオーナー様ご自身で管理を始められるのか、いくつかのシミュレーションの中で、どの方向へいかれるのか、道も分かれてくることでしょう。

駅近であり入居者で部屋がほぼ埋まっているような物件の場合には、そうでない場合に比べると、計画が立てやすい面はあろうかと思われます。しかし、購入価格がその分高かった(土地が高い分)といったことも考えられるため、返済を予定通り続けることは、そんなに楽とはいかないのではないかと思われます。

また、中には駅から遠くても、その立地が何らかの価値を持つ場合には、入居付けも努力で報われる可能性も出てくると期待したいところです。

一番大変なのは、駅から遠くて、とくにその立地に意味づけできる価値が見いだせない場合でしょうか。その場合には、家賃を下げて埋めていくか、新たに何らかの付加価値を付けていくか、といったことの取り組みが必要になってくるのではないかと思われます。

新社長のもとで、英語で暮らすシェアハウスといった取り組みもなされているようですが、このような取り組みには関心がもてるところです。
ただし、やはり、このように付加価値を付けるにしても、駅近の方が人は集まりやすいということ、また全物件をこのような取り組みだけで埋めていくことは簡単でなく、時間もかかるだろうと思われること、理屈は合っても、現実の道のりは険しいものになるのではないかと思われます。

あるいは、社宅や学生寮などとして、いずれかのところから借り上げてもらえればいいのでしょうが、それにしても、やはり立地がどうかという問題が付いて回ることになるでしょう。
企業に勤める方にとってその立地が望ましいところなのか、大学に通いやすいところになるのか、その他いろいろ条件が合致してこないと、思いつきとしてはアイデアがでてきても、現実的に適用していくには難しい面も出てくると思われます。

仮に、このように難問が積みあがっている物件はいっそのこと売却しようと考えてみたとしても、大幅な損切を覚悟しないと売却できないだろうことが、予想されます。

大幅な損を出すというのは、誰しもやりたくないことです。また、残債が売却価格で消せなければ、売るに売れない。
しかし全部をつぎ込んでも、いずれ返済ができなくなる時が仮にくるとしたら、どうでしょう。

注ぎこんだ年月の中で、順調に部屋が埋まり、今の状況が好転すれば、今すぐ損切するよりは高い価格で売却できる可能性も高まることもなくはないでしょう。
持ちこたえることで、未来の可能性を高めていくということも選択の一つではあるかもしれないです。

ほぼ満室という状態にして、家賃もしっかり入ってくる物件としてから、市場に出して、売却をする、それでも損は出るでしょうが、痛みの少ない手離れができることもあるでしょう。
ただし、それもうまくいけばいいですが(うまくいく物件であればいいですが)、いろいろやったが、だめだったということも起こり得るでしょう。

大きな金額での不動産投資の失敗は、金銭的にはダメージが大きく、取返しも付きづらいものです。

それだけ、不動産というのは、しっかりした目で見ることが必要なものだと言えます。

慎重なばかりでは物件を買うことはできない、投資の機会を損失する、ということも半面言えます。それでもやはり、不動産業者の一人として、とくに新築シェアハウスのような難しい投資物件を購入する際には、メリットばかりでなく、その裏にあるデメリットにも目を向けて、吟味していただきたいと思います。

噂では儲かる物件はたくさんあることを私もよく聞きますが、そんなに簡単に儲かる物件は、現実ほとんど無いと思います。そしてあっても一般的には市場には出回らないものです。不動産投資をされるのであれば、噂話は噂の範囲できいておき、やはり、ご自分の足で歩いてご自分の目で見て、堅実に実行されることをおすすめいたします。

スマートデイズ(旧スマートライフ)のシェアハウスのこのブログは、想像のところで書いた部分がありますこと、ご了承ください。

(弊社は、今回の物件をおすすめしたり販売したことはございません。)

ただ、この2~3年ずっと「スマートライフ」のことが気になっておりました。そのくらい、弊社(不動産業者)としては、難しい物件をたいへんなスピードで建築、販売し続けているという印象が強かったものです。

 

カズシン株式会社

代表取締役 山内和美