カズシン・ブログ

カズシン株式会社 代表取締役 山内和美のブログ
不動産業界20年を超えて、この経験に基づく…取引のこと、物件のこと、人間のこと。
宅地建物取引業者(不動産業者)カズシンの代表 山内和美が思うこと。

スマートデイズのシェアハウス。投資家がハンコを押すということ。生きること。

2018.05.30

「かぼちゃの馬車」等運営の株式会社スマートデイズ(旧「株式会社スマートライフ」)は、5月15日、東京地裁より破産開始決定を受けました。

目覚ましいスピードで業績を拡大してきたものの、数年で破綻(破産)に至ったこのビジネスモデルについて。

スルガ銀行が融資してくれるだろうことを前提としてなければ、成り立たないビジネスモデルだったと思われます。

スルガ銀行が個人(属性の良い会社員等)への不動産融資をしていることは、スマートデイズ(旧スマートライフ)が「かぼちゃの馬車」を販売(販売会社等によって)する以前から、不動産業界においては周知されていました。

スルガ銀行等、個人の不動産投資(不動産経営)に融資する銀行があったからこそ、一般の(属性の良いと言われる)会社員等が、不動産(物件)を購入することができたということになります。

とくに不動産経営に慣れていない個人が不動産投資(不動産経営)をする際には、その物件購入時、より安定的となるようある程度以上の自己資金が本来求められるものでしょう。しかし、その自己資金額を意味する通帳の残高の確認において、数字が改ざんされていることを知っていたにも関わらず、スルガ銀行の行員が融資をおこなったらしいです。

その「改ざんを知っていたにも関わらず」融資したのは、今回のスマートデイズ(旧「スマートライフ)」の「かぼちゃの馬車」等のシェアハウスに対してだけではなく、スルガ銀行が融資した個人向けのアパートローン等によっても同様の例が見られるそうです。

スルガ銀行は建前としては、自己資金を求めていたが、「改ざん」された書類であっても、書類上、帳尻が合えば、融資を実行したということでしょうか。

そうした行いによって積みあがった個人向け不動産担保ローンにより、業績拡大しながら、スルガ銀行は、今回、スマートデイズ(旧「スマートライフ」)等のシェアハウス融資で、問題が発覚したということになりそうです。

ということは、今回のスマートデイズ(旧「スマートライフ」)が練り上げたビジネスモデルを考え付いた方(方々)は、ある意味事業計画の前段階における思いつきの段階からすでに、スルガ銀行による物件購入者への融資付を前提、スルガ銀行であればフルローン(改ざん)が可能である(?)(かもしれない)ことも期待して、当初から事業を計画したということになるのでしょうか。

事実はわかりませんが、そのような流れがあった可能性についても、考えが出てきてしまいます。

スルガ銀行であれば、実際には預貯金がほとんどない会社員等であっても、自社のサブリース物件(新築シェアハウス)を購入させられるということであれば、「自己資金が無くても買える」ことを誘い文句に、どんどん会社員の方々(他)を集客することができたことでしょう。

なぜなら、こうした会社員の方々(他)は不動産投資をしてみたいけど、現実には自己資金が無くてできないからです。そこに「自己資金が無くても不動産が買える。しかも一括借上げ保証付き」となれば、この話に乗りたくてたまらない気持ちになる方はたくさんいたことでしょう。

半面、相当額の自己資金がある方であれば、もっと違う物件(不動産)を選択することが可能でしょう。それだけの自己資金がある方であれば、自己資金を失いたくないがために、まず採算についてより厳密に計算をするだろうということ、騙されるようなことがあっては大損するので周囲の信頼できる不動産に詳しい方のアドバイスも求めるのではないでしょうか。

だから、結果的に、今回の「新築シェアハウス」のように「難しい物件を高値」で購入することは起こりづらくなる面があると思われます。(とは言え、全額自己資金にも関わらず、たいへん良くない物件を購入する結果となる例もないわけではありません。物件を見る目が無かったということより、むしろ、買わせる側の問題だと思える部分もございます。)

「自己資金が無いから買えない」方々に対して、「大丈夫です、弊社なら買える」といった言葉で惹きつけるからこそ、多くのあまり自己資金が無い方々が購入を決断したということにつながるような気がいたします。

スルガ銀行の立場にしてみれば、たとえ自己資金が無い方であっても、約束通り返済を滞りなく長期的に行ってくれさえすれば大きな痛手はない、といった行員の認識があったのでしょうか。

だから、書類(預金残高)の改ざんも見てみぬふりしたのでしょうか。

今、「書類の改ざん」が焦点となってきており、自己資金が無いのに不動産を購入しようとした投資家(会社員)の方々に対する「自己責任」論の勢いは小さくなっているように見受けられます。

たしかに、今回は、オーナー様の「自己責任」論だけで集約してしまうには、気の毒な例であろうと思われます。

ただし、「後悔先に立たず」で今言っても仕方ないことですが、逆に「自己資金」をたくさん入れて購入するのであれば「万一、このお金が無くなってしまったら」と心配になるものでしょう。

自己資金を一定額以上入れての投資であれば、簡単な儲け話には乗らなかったかもしれないところ、身銭をきっていない感覚のため、乗ってしまったといった面があるのかもしれないです。

とすれば、スルガ銀行が黙認したことも問題は大きいですが、オーナー様も「いい話には裏がある」という大人の知恵を使っていただければ、言い寄ってくる販売会社等の話にも乗らず、結果的にスルガ銀行からの多額な融資も受けなくてすんだのではないかとも思われます。

不動産投資は、安定的に行わなくてはならないと思います。自己資金無しで億の物件を購入して、順調に回していくことは、プロの不動産業者であっても実際には大変な場合も多いと思われます。

したがって、無理な投資は行わないこと。不動産投資を行う場合は、やはり、いざという時でも破綻(自己破産)に追い込まれないだろうと思われる、ある程度の余裕を持ちながら、健全経営ができるよう、一定の自己資金を入れて実行するということ。

それでは「旨みが無い」かもしれませんが、おいしい話は実は、「旨みが無い」どころか、地獄への入り口かもしれません。

不動産投資を実行するのであれば、やはりよく勉強し、安易に手を出さない強い意思が必要ではないかと思います。

また、接待などの誘惑にも負けない、「断る」という強い精神力も求められてくると思います。その場は楽しいかもしれませんが、結果的に、相手の思う壺にはならないことです。

抜き差しならない関係にならないよう、いざという時、大事な時に「断る」自由を奪われないよう、常に、自分自身をしっかり保って、本業に一生懸命になるということ。不動産投資をするなら、自分の意思で始めて、常に「自己責任」だと思える投資を行っていただきたいと思います。

 

お金をなくす、多額の負債を負うことは、本当に苦しいことだと思います。「あの時、あのハンコを押さなければ」という苦々しい後悔に苛まれることがどれほどおつらいことなのか。

しかし、慰めにもなりませんが、「あの時、あのハンコさえ押さなければ」という方は、この世の中にたくさんいます。また、その時「押さない選択肢は実際にあったのか?」思い返せば返すほど、その場においては「そのハンコを押すしかなかった」という、ぎりぎりの感情や場面などが鮮明に思い返される方も多いのではないでしょうか。

ところで、あいまいな部分こそ、その重要性を明確にすることです。今回のスマートデイズの件に関して言えば、「借上げ保証家賃は、変動することがある」こと(そもそも保証会社が倒産すれば、約束は果たされないこと)について、もっとリスクを重く受け止めていただくことが必要だったと思われます。

なぜなら、「後で後悔するハンコを押させる方」と「後で後悔するハンコを押してしまう方」は、後でそのあいまいな部分に関する解釈にずいぶん行き違いがあったというようなことがあるのではないかと思われるからです。その解釈の行き違いが起こるからこそ、「後で後悔するハンコを押させる方」は、その時結果的にその相手からハンコを押してもらっているということも言えるのかもしれません。

(「後で後悔する」のは、判子を押させる側だけの責任とも限らず、市況の変化などによることも多いですが、あいまいな部分をいいように解釈させたまま、判子を押させるのは、スマートなやり方とは言えないと思っております。)

これからは、そのようなハンコはぜったいに押さないでいられるよう、自分自身を一層強くしていかれるよう、見直しをされる「機会」にしていただければと願っております。

私も含めて、おそらくたくさんの方が、見抜けないでいろいろな苦労を背負い込む経験をして生きてきているように感じています。

それは「不動産」だけではなく「お金そのもの」であったり、お金に勝るとも劣らない何かであったり。身を削り心が千切れるような経験をしながらも、あきらめないで未来を見て生きている方がたくさんおられます。

それがまた「生きる」ということではないかと思っております。

 

カズシン株式会社

代表取締役 山内和美